「意図のない球は1球もない」
黒田博樹が見せる「最後の勇姿」を前に。
黒田博樹投手の引退。「決めて断つ」「クオリティピッチング」の2冊を刊行した編集部の思い出
■編集部のミスに黒田投手は……
この本は、黒田投手の投球フォーム、理論、技術、配球そしてマウンド上におけるメンタリティまでが余すところなく記されており、北海道日本ハムファイターズの大谷翔平投手をはじめ、千葉ロッテマリーンズの田中英祐投手ら、たくさんのプロ投手が読んでいることで話題になりました。編集過程でも、こんなにも考えながら(しかもセオリーをどんどん覆しながら)マウンドに立っているのか、と鳥肌が立ったことは忘れられません。
さてこの本、黒田投手が登板した実際の試合を5試合ほどピックアップし、その投球内容を黒田投手が振り返りながら、配球やメンタリティを解説をするという特別な動画をつけました。記憶力に舌を巻いたのはこの取材のときのことです。
編集部は、事前につけておいたスコアブックを片手に、同じ資料を黒田投手に渡して、動画インタビューが始まりました。
5時間を越える取材。5試合のほとんどの投球を振り返りました。そして、恥ずかしながらインタビューをする私たちが間違えることがあります。
「次、スライダーでファーストゴロに打ち取ります」
「このバッターの入り(初球)は、バックドアで……」
すると、すかさず黒田投手の訂正が入るのです。
「いや、スプリットでショートゴロじゃないですか」
「ここは確か、スプリットで入っているんじゃないですか」
もちろん、正しいのは黒田投手。それを我々が渡したスコアブックをほとんど見るもことなく、淡々と答えていく……。驚いて、取材終わりについつい聞いてしまいました。
「全部、おぼえていらっしゃるんですか?」
このシーズン、黒田投手が投じた球数はポストシーズンを合わせて3300球を越えていました。
「映像を見れば、なんとなく思い出しますね」